CIRJE Conferences 1999

NBER-TCER-CIRJE Japan Project Meeting
(NBER/TCER/CIRJE)

  • Organizers:
    林文夫(東京大学)
    Anil Kashyap (University of Chicago)
  • 1999年12月15日
  • 国際文化会館(東京)

このコンファレンスはここ数年継続しているが、CIRJEは昨年から共催を始めた。上記プロジェクト代表者2人がコンファレンスの座長を務めた。日本経済に関する論文を日本・アメリカに在住する経済学者から広く公募し、応募されてきたうちのなかから5本を選んでコンファレンスで発表してもらった。各セッションは著者による発表は15分程度にし、残りは討論者・一般参加者からの質疑応答という形式をとった。

PROGRAM

Time Presenter Title Discussant
9:00am - 10:15 am Heather Berry
Mariko Sakakibara (UCLA)
「日本の多国籍企業の資源蓄積と海外への拡張:
内部化理論の実証分析」
"Resource Accumulation and Overseas Expansion by Japanese Multinationals: An Empirical Analysis of the Internalization Theory"
Kyoji Fukao
(Hitotsubashi Univ.)
<Abstract>
この論文は二つの事柄について調べている。第一に、企業の国際活動水準が変化することで、株主にとっての多国籍企業の価値が発展するかということについてであり、第二に、内部化理論でいわれているように、海外への投資に先んじて、企業は無形資産を蓄積しているかということである。この論文ではこうした点について、24年間(1974-1997)にわたる日本の製造業企業141社のサンプルを用いて、動学的な文脈の中で分析を試みている。実証分析の結果、海外直接投資の株主利益は、企業の国際活動の水準につられて、変化することが明らかになった。さらに、無形資産が海外直接投資に対してグレンジャーの意味で因果性を持ち、内部化理論を支持する結果になっている。
<Discussion>
在外子会社数が、対外直接投資の指標として妥当であるかどうか、アンチ・ダンピング訴訟の影響を考慮する必要はないか、といったコメントに対し、子会社の従業者規模は比較的時間を通じて安定的である、また企業レベルではアンチ・ダンピング訴訟の影響は重要ではないのではないか、との返答があった。
10:45am -
12:00 pm
Pinelopi Goldberg
(Columbia Univ./NBER)
Michael Knetter
(Dartmouth College/NBER)
「写真産業における国際競争:コダック対富士フィルム」 "International Rivalry in the Imaging Industry: Kodak v. Fuji" David Weinstein
(Univ. of Michigan/NBER)
<Abstract>
この論文は、写真産業における国際競争の変化に関するケーススタディである。様々なデータを用いて、消費者向け・業務向けの写真業界における競争がここ数年で変わってきたかどうか、またいかに変化してきたかということを分析している。実質円ドル為替レートの外生的な変動は、コダックと富士フィルム間の生産の相対的なコストの変化を生みだし、競争の度合いを認める上で主要な働きをなす。ここで明らかになったことは、富士フィルムが当該産業において市場力を得てきたということである。ほとんどの指標から、コダックの市場力が低下しているということと、富士フィルムとの相対的なコスト変化に対するコダックの感応度が増大しているということが示されている。
<Discussion>
円=ドルレートと円=マルクレートとで異なるショックがあった場合、時間ダミーの持つ意味はどうなるかという質問が討論者からなされた。これに対して、時間ダミーは、輸出先の需要要因・マークアップの変化から、為替レート変動によって生じる費用への影響の平均的な変動を区別してとらえている、との返答があった。
1:15pm -
2:30 pm
Hiroshi Ono
(Stockholm School of Econ.)
「受験地獄は報われるのか?日本の大学教育における費用-便益分析」 "Does Examination Hell Pay Off? The Cost-Benefit Analysis of College Education in Japan" Naohiro Yashiro
(Sophia Univ.)
<Abstract>
日本では、大学の名前に対して執着が強く、大学に入学する環境が極めて競争的であることから、いかに各個人が大学入試に臨むかということに対して、大学の質が重要な役割を果たしていることが示唆される。大学進学希望の高校生は、いわゆる「受験地獄」を経験し、一般的に30%以上が浪人生となることを選択する。浪人すると、次の年の入学試験に備えながら、大学にはいるために高校時代に加えて数年を費やすことになる。従って、大学生という身分を追求することは、人的資本に対する差別化された投資であると捉えることができる。こうした投資はより高い収益をもたらすであろうと信じることから、他人よりも投資を多く行なうものもいる。
入試における平均点を、その大学の質を表す指標として用いて分析したところ、日本の大卒男子の標本について、大学の質が高いと内部収益率(IRR)が有意に高められることが見出された。また浪人することは、それ自体単独では収益に直接的な影響を及ぼさないが、進学した大学の質を高めることを通じて、間接的な効果は持つことが示唆される。浪人することに対するIRRは、収穫逓減的であることも示される。浪人した結果得られる大学の質は、逓増的に向上しなければならない(なぜなら、浪人することの限界費用は逓増的であるからである)が、実際にはこれは逓減的である。平均すると、IRRを最大化する浪人年数は、およそ1-2年の間となっている。
<Discussion>
個々の労働者の賃金プロファイルを決定する要因として、職種や企業規模による影響を考慮すべきではないかというコメントがあった。また、「名声」などの学歴によって生じる非金銭的要素の影響も指摘された。これに対して、企業規模などの要因は、異なる形で分布への影響しており、また非金銭的要因は数量化が困難であるとの返答があった。
2:45pm -
4:00 pm
Joe Peek
(Boston College)
Eric Rosengren
(Federal Reserve Bank of Boston)
「日本の金融問題は経済成長を抑制しているのか」 "Have Japanese Banking Problems Stifled Economic Growth?" Makoto Saito
(Osaka Univ.)
<Abstract>
1990年代初期にアメリカが経験したような伝統的な「クレジット・クランチ(貸し渋り)」は、1992-98年の期間を通じて日本では起こらなかった。資本が不足している銀行は不釣合いなまでに貸付金を削減することはなく、全般的な貸し出しが劇的に減少するということはなかった。しかしながら、貸付金額の減少ではなく誤った信用配分によって、金融問題が経済成長を抑制したことが明らかにされた。ちょうど銀行自らの構造改革が遅かったのと同じように、銀行は、資金繰りが困難である競争力のない企業を支援し、改革を必要とする非金融的な企業のそうした動きに水をさした形となった。この結果、日本における強力な貸借関係が日本の企業を孤立させ、資本の貸し渋りを防いだものの、生産性がもっとも低いと思われるような経済部門に資金の割合が多く配分され、経済成長を抑制したのである。
<Discussion>
大企業と大手銀行間の関係から、90年代の日本における日本におけるクレジット・クランチの問題を捉えるのは妥当であるか、との指摘に対し、中小企業データを集めることが困難であると述べられた。これについては、銀行レベルのデータから捉えられるのではないかという提案もなされた。
4:30pm -
5:45 pm
Jun-Koo Kang
(Michigan State Univ.)
Anil Shivdasani
(Univ. of North Carolina)
Takeshi Yamada
(Hong Kong Univ. of Science and Technology)
「投資の意思決定における銀行との関係の効果について:日本の株式公開買い付けの分析」 "The Effect of Bank Relations on Investment Decisions: An Investigation of Japanese Takeover Bids" Takeo Hoshi
(UCSD/TCER)
<Abstract>
ここでは1977年から1993年の間に154の日本国内で実現した合併事例を分析している。アメリカの事例とは対照的に、取得側企業への投資家にとって合併は好ましく思われている。取得側企業の二日間の超過収益率は、公開買い付けの期間中1.2%、5.4%となっている。合併が公表されることからの収益は、取得側企業が銀行と強い関係を持っていることと、高い正の相関を見せている。銀行との関係から受ける利益は、投資機会に恵まれていない企業の方が大きく、銀行部門が健全である時の方が大きくなるようである。銀行など情報を持った債権者との結びつきが密接であれば、株主の資産を増大させるような投資政策が促進されると結論される。
<Discussion>
メインバンクの役割として、資金の貸し手という側面に着目しているが、株主や役員の派遣元としての機能も重要ではないかとのコメントのほか、政策的に推進された合併の影響を考慮する必要が指摘された。これに対して、当初は株主としての側面を考慮していたが、論点を明確にするために省いたこと、また政策的な合併のケースも含まれているが、数は少ないと考えられるとの返答があった。
5:45 pm - Ajourn
6:15 pm - Group Dinner Dining Room, International House of Japan

第1回TCER-CIRJEマクロコンファレンス
(東京経済研究センター/CIRJE)

  • Organizers:
    林文夫(東京大学)
    チャールズ・ユウジ・ホリオカ(大阪大学)
  • 1999年9月11日(土)
  • 東京大学山上会館


PROGRAM

Time Presenter Title Discussant
9:30am - 10:30 am Keiko Shimono
(Nagoya City U.)
Hideaki Otsuki
(Nanzan U.)
Miho Ishikawa
(Imai Accounting Group)
"Estimating the Size and Distribution of
Bequests in Japan"
Yukinobu Kitamura
(Hitotsubashi Univ.)
10:45am - 11:45am Nobuko Nagase
(Ochanomizu Univ.)
「統計間のマッチングによる実験:
子どものコストと資産形成および
妻の就業が家計構造に与える影響」
Fumio Ohtake
(Osaka Univ.)
11:45am - 1:00pm Lunch at Sanjo Conference Hall
1:00pm - 2:00pm Miki Kohara,
Fumio Ohtake,
Makoto Saito

(Osaka U.)
"A Test of Full Insurance Hypothesis:
The Case of Japan"
Fumio Hayashi
(Tokyo Univ.)
2:00pm - 3:00pm Atsushi Maki
(Keio U.)
"The Statistical Price Index as an Approximation of
the Constant-Utility Price Index:
An Empirical Analysis using Japanese Data-Sets"
Shigenori Shiratsuka
(Bank of Japan)
3:15pm - 4:15pm Ryuzo Miyao
(Kobe U.)
"The Effects of Monetary Policy in Japan:
A Tentative Assessment"
Tsutomu Watanabe,
Masato Tanaka
(Hitotsubashi Univ.)
4:15pm - 5:15pm Etsuro Shioji
(Yokohama Nat'l U.)
"Public Capital and Regional Output Dynamics:
A US-Japan Comparison"
Shin-ichi Fukuda
(Tokyo Univ.)
6:00pm- Dinner

第2回CIRJE国際コンファレンス「先進国における社会保障改革」
(CIRJE)

  • Organizers:
    橘木俊詔(京都大学/CIRJE)
    井堀利宏(東京大学)
  • 1999年9月6-7日
  • 東京大学山上会館


Monday, September 6
Part One
Chair: Tatsuo Hatta (Center for Spatial Information Science, University of Tokyo)
Part Two
Chair: Toshihiro Ihori (Faculty of Economics, University of Tokyo)
Tuesday, September 7
Part Three
Chair: Hiroshi Yoshikawa (Faculty of Economics, University of Tokyo)
Part Four
Chair: Akiyoshi Horiuchi (Faculty of Economics, University of Tokyo)

Monday, September 6

Part One

Time Presenter Title Discussant
10:10am -
11:10 am
Kai A. Konrad
(Free University of Berlin)
"Geography of the Family" Yasuo Maeda
(Osaka University)
Summary
Konrad氏より、兄弟が二人いる場合の、それぞれによる親の住居からの距離の選択を、非協力ゲームとして分析した論文が報告された。 子供は両親に対する愛情を持っているが、子供にとって、親からの距離が遠いほど訪問するコストがかかる。公共財の私的供給に関する非協力ゲームのモデルによって、子供の住居選択戦略を分析した結果、兄弟がいない子の場合、親といっしょに住むことが訪問のコストを最小にする最適戦略であるが、兄弟が二人いる子の場合、一方の子供が親といっしょに住み、他の子供は親と離れて住むことが、唯一の部分ゲーム完全均衡となることが示された。また、兄弟がいる子の親の住居からの距離の平均値は、兄弟がいない場合の平均値よりも大きく、一方の子供が親の近くに住み他の子供が遠くに住んでいる傾向が、実際のデータによっても観察され、理論的含意が確認された。 前田氏より、家の広さ、一人っ子どうしが結婚した場合、親の居住地が都市部にあるかどうか、家の条件が親の効用に与える影響などの点から、モデルを拡張できる可能性が指摘された。
Time Presenter Title Discussant
11:10am -
12:10 pm
Hideki Konishi
(Tokyo Metropolitan University)
"Public Pension Reforms and Welfare in an Economy with Adverse Selection" Koichi Koyama
(Hokkaido University)
Summary
小西氏より、年金市場における逆選択の問題を考慮した場合の、公的年金制度改革が経済厚生に与える影響を分析した本論文の報告がなされた。 一人当たりの公的年金給付額が高いほど、民間年金の保険料は上昇すること、人口増加率よりも利子率よりが高いときのみ賦課方式年金の導入は長期的に見て経済厚生を改善するとする黄金率は、必ずしもあてはまらないことが理論的に示された。すなわち、年金給付の規模が、収益率とともに、長期的経済厚生に重要な役割を果たし、一人当たりの給付が十分に大きいとき、たとえ人口成長率が利子率よりも低い場合でも、賦課方式の公的年金の導入が経済厚生を改善し得る。また、民間年金への強制加入は、公的年金制度が完全に廃止されたときに効率性を改善する点も示された。 小山氏より、モデルの仮定に関する質問とともに、レッセ・フェールと現行年金制度との比較だけでなく、その他の公的年金制度と比較を行うことも提案された。


Part Two

Time Presenter Title Discussant
13:30am -
14:30 pm
Olivia Mitchell
(University of Pennsylvania)
"Managing Pensions in the 21st Centry: Design Innovations, Market Impact, and Regulatory Issues for Japan" Noriyuki Takayama
(Hitotsubashi University)
Summary
ミッチェル氏より、各国の年金負債、資産市場のパフォーマンスに関する豊富なデータを用いて、特に確定拠出型年金の成長の歴史から、日本の年金改革に対する示唆が提示された。 確定拠出型年金の歴史は大きく二つに分けられる。第1世代においては、確定拠出型年金は主に国、あるいは企業の主導のもとに計画・運営され、透明性を欠いていた。第2世代は、個人口座の創設を導入し、飛躍的に成長した。今後も、個々のリスク選好に合う投資選択可能性の拡大、拠出に関する自由度、迅速な情報提供、教育・助言サービスの充実が一層望まれる。一方で、中途退職者が受け取った一括給付を、税制度によって優遇されているにもかかわらず再び別のプランに預け入れるケースが少なく、401(k)プランからのローンも増大していることから、このような人たちの退職後所得不足が新たな懸念となっている。 高山氏より、日本の公的年金制度の問題点と改革案に関する広範な説明が行われ、次に優遇税制について、また、アメリカの確定拠出型年金の成功は近年のアメリカの株価の上昇に大きく依存しており、今後株価が大きく変動した場合の影響についての質問がなされた。
Time Presenter Title Discussant
14:30am -
15:30 pm
Mats Persson
(Stockholm University)
"Five Fallacies in the Social Security Debate" Hiroshi Yoshida
(Tohoku University)
Summary
Persson氏は、社会保障制度に関する議論において触れられることが多い「社会保障制度の現在の問題点は人口高齢化によって生じている」、「賦課方式の年金制度はその収益率の低さから積立方式に劣る」、「リスクのない世界では、低収益の賦課方式は高収益の積立方式に劣る」「社会保障制度は世代間のリスク・シェアリングに適した機能を有している」、「政府は社会保障の安全な供給者である」という5つの論について詳しく洞察を加え、特に、拠出と給付の関係が保険数理に従っていないことが公的年金の大きな問題点であること、賦課方式の収益率の低さは、拠出を行っていない第1世代に与えられた給付をその後の世代が負担していることにも由来しており、たとえ年金制度を民営化しても将来世代はこの負担から免れることはできないこと、収益率の観点からだけでなく、他の運用方法による収益率の変動とどの程度相関があるかを考慮してポートフォリオが構成されるべきであることを強調した。そのうえで、 まず年金給付のルールを年金数理的に公平にし、拠出を行っていない世代への給付に由来する負債は、政府が国債を発行して解消し、後になるべく多くの将来世代にわたって税を負担することが望ましいこと、最終的には、透明性と、政治リスクを減少させる点から民営化が望ましいことが結論として示された。 吉田氏より、現実の公的年金制度は人口高齢化に迅速に対応できない要素を有しておりおり、人口高齢化の影響は非常に大きいこと、高齢化が進行すれば賦課方式の収益率がマイナスになる可能性があること、民営化が十分な競争を伴うかどうか、等についてのコメントがなされた。
Time Presenter Title Discussant
15:50am -
16:50 pm
Toshiaki Tachibanaki (Kyoto University) "Integration of Social Security and Tax Systems" Yukinobu Kitamura
(Hitotsubashi University)
Summary
現在、国民年金加入者のうち約3分の1が保険料を支払っておらず、基礎年金給付額の3分の1が一般会計からの移転によって賄われている。橘木氏は、初めにこのような日本の現状と主要な年金改革案を説明し、次に、現在の社会保険方式をやめ、税方式、特に累進消費税によって財源を確保する方式に移行することが望ましいとする論文の報告を行った。 世代重複モデルに労働者の所得不均一性を導入して一般均衡モデルを構成し、税方式の導入の程度と、税の種類に基づく5つのシナリオのもとで、各所得層の経済厚生の変化に関するシミュレーションを行った。その結果から、社会保障制度と税制度を完全に統合し、累進消費税を導入するシナリオがもっとも望ましいとの結論を示した。 また、将来納税者番号を導入すれば、所得と貯蓄を正確に把握することで各納税者の総消費額に課税することが可能となり、累進性を実現できることを強調した。 北村氏より、初めに政府の役割、社会厚生関数等、モデルの構成についての質問があり、特に他の社会厚生関数を採用することにより、公平性の観点からも評価を行うことが可能ではないか、とのコメントが示された。また、政治的実現可能性についても触れられた。
Time Presenter Title Discussant
16:50am -
17:50 pm
Ashwin Kumar (Department of Social Securities, U.K. Government) "Pension Reform in the UK: from Contribution to Participation" Naohiro Yashiro
(Sophia University)
Summary
Kumar氏より、1998年12月に政府より発表されたA new contract for welfare: Partnership in Pensions(厚生のための新しい契約: 年金への参加)による年金改革の概要が説明された。 かつて保守党政府によって行われた社会保障制度改革により、将来の給付水準は不十分なものになるという認識が広まりつつあり、ミーンズ・テストによる最低所得保障資格に将来当てはまると予想する低・中所得者の貯蓄へのインセテンティブを阻害するという影響を与えている。現行の年金制度は基本部分と現役時の賃金に連動する部分の2段階より構成されている。現行制度のもとでは、2063年には、平均的賃金所得者でも退職後ミーンズ・テストによる最低所得保障受給資格に該当することになると計算される。新制度は、賃金に比例して決定される現行制度の年金給付率をよりフラットなものにすることを提案しており、大部分の所得階級において、総年金額が最低所得保障水準を超えることとなる。また、子供の養育や介護に携わる者も受給資格があるのが新制度の特徴である。 八代氏より、このような英国の年金制度の所得再分配効果についてのコメントがあった。 低所得者に対する年金給付水準の大きな上昇、受給資格が広く与えられることなどの新制度の特徴を指摘し、年金給付は退職後の所得をどの程度保障すべきなのか、また、働いていない妻への所得再分配、労働に対するディスインセンティブ効果についても問題提起がなされた。


9月7日(火)

Part Three

Time Presenter Title Discussant
9:30am -
10:30am
Gary Burtless
(The Brookings Institution)
"Social Security Privatization and Financial Market Risk: Lesson from U. S. Financial History" Tetsuo Fukawa
(National Institute of Population and Social Security Research)
Summary
Burtless氏の発表は、個人口座で退職後のための資金を運用した場合に被るリスク、中でも資産価格の変動リスクについて、豊富な資料とシミュレーションの結果を踏まえながら報告を行ったものである。 シミュレーションでは、運用方法と就職・退職時期が異なり、他の点ではまったく同一の労働者が退職時に得る収益率、あるいは退職後に得る実質年金が、実際の株価収益率、債券利子率、物価上昇率データを使って計算された。 その結果、全額国債に投資した場合、退職時期の違いによる収益率のばらつきを減らすことができるが、全額株に投資した場合に比べて平均収益率はかなり低い。また、退職後の年金はインフレーション・リスクを被り、年金実質価値の年齢による推移は、退職時期によって大きく異なる。 このようなリスクは個人で対処するには難しく、公的なシステムが十分な積立金を持てば、資産市場リスクを広く分散しながら同程度の期待収益率を確保することが可能であろう、というのが氏の論点である。 府川氏は、Burtless氏の論旨に対するコメントとともに、アメリカの今後の年金政策、特に、公的システムと民営化の融合の程度、所得再分配への影響についての質問を行った。
Time Presenter Title Discussant
10:30am -
11:30am
Erik Hernes
(University of Oslo)
"Early Retirement and Economic Incentives among Married Men" Atsushi Seike
(Keio University)
Summary
Hernes氏は、ノルウェーの早期退職制度のもとで、夫婦の退職行動について行った実証分析を報告した。 ノルウェーの本来の年金受給資格は70歳から与えられるが、67歳から減額されることなく受給できる。1989から導入された早期退職制度により、1998年時点で受給可能な最小年齢が62歳まで引き下げられている。氏はノルウェー統計局が保有する全人口に関するデータを利用して、1993年、1994年に早期退職制度に該当するようになった既婚男性の引退行動と妻の労働供給との関係を、オプション・バリュー・モデルを用いて分析した。その結果、夫が早期引退制度に該当しても妻が該当しない場合に夫が引退を選択する確率は、妻がすでに引退している場合に比べて低かった。妻が近々退職する予定がある場合の夫の引退選択の確率は、妻がフルタイムで働き続ける場合よりも高かった。このような結果は、夫婦で一緒に余暇をすごすことに大きな価値を見出していることを示すが、一方で、夫婦間の年齢差が開くほど、この価値付けは低くなるというシミュレーション結果も提示された。 清家氏より、モデルに引退後のオプション・バリューを導入することで、結論に興味深い変化が現れるのではないか、等のモデル構成に対するコメント、また実証手法に対するコメントが出されるとともに、高齢者の就労を促す政策を取ろうとする国が多い中で、なぜノルウェーは早期引退制度を維持しているのかという質問もなされた。
Time Presenter Title Discussant
11:50am -
12:50am
Tatsuo Hatta
(University of Tokyo)
"Switching the Japanese Social System from Pay as You Go to Actuarially Fair: A Simulation Analysis" Eiji Tajika
(Hitotsubashi University)
Summary
積立方式に完全に移行すれば、それぞれの労働者が現役時代に行った拠出に基づき、年金数理的に公平な給付を受け取ることができる。しかし、生涯拠出と生涯給付を等しくするような完全に公平な拠出率を採用すれば、高齢の現役世代に30%を超える生涯拠出率を課すことになる。八田氏は、政治的に実現可能な案として23%プランを提案し、現行プランのもとでの生涯拠出率、生涯給付率と比較した。 23%プランは、具体的には、一人当たりの給付額を現行レベルより20%削減する一方で、2150年まで拠出率を23.1%に固定し、十分な積立を行う。八田氏の行ったシミュレーションによると、1980年以降に生まれたコーホートの生涯所得に対する拠出と給付の割合を示す生涯拠出率と生涯給付率の差は、現行制度が維持されれば13.9%であるが、23%プランに移行した場合、この差が8.1%に縮小される。 田近氏より、23%プランはベビーブーマーが現役の間に十分な積立金を補充しようとするものであるが、積立方式への移行というよりは、賦課方式の中での改革と思われるというコメントがあり、年金の基本部分を完全に分離して累進支出税等の税によって賄い、それに付け加えられる部分を強制的な積立方式とするという改革案が出された。


Part Four

Time Presenter Title Discussant
14:30am -
15:30am
Toshihiro Ihori
(University of Tokyo)
"Pension Contributions and Capital Accumulation under Modified Funded System" Fumio Ohtake
(Osaka University)
Summary
井堀氏より、修正積立方式を動学的に説明できるモデルを構成することがこの論文の目的であるという説明の後で、モデルの詳細についてのデモンストレーションがなされた。 モデルの特徴として、従来の世代重複モデルに、拠出率決定の際に政治行動を行う複数の利益団体の存在が想定されており、また、年金会計の積立金が財政投融資を通じて公共財の供給し、引退後の生活の快便性に影響を与える側面も組み入れられている。一般均衡での比較静学を行った結果、年金積立収益率が高いほど、公共財供給、年金積立、物的資本の蓄積が進み、厚生も増加すること、年金給付の現役世代賃金に対する比が上昇すると、資本蓄積がダウンすること、公共財供給の効率性が改善されても必ずしも資本蓄積、厚生の増大につながらないことが示された。また、分権的経済では積立金への拠出がもたらす外部性が完全に認知されないため、公共財供給あるいは年金積立は民間消費に対して過小であるが、定常状態では過大あるいは過小となることも示された。 大竹氏は、井堀氏の政治経済学的アプローチに触れ、政治行動が導入された結果として比較静学が複雑になっている点を指摘した。また、変数に関する仮定について、特に政治行動が若年層に限定されている点について、コメントを行った。
Time Presenter Title Discussant
15:30am -
16:30am
John Piggott
(The University of South Wales)
"Private Mandatory Retirement Provision: Design and Implementation Challenges" Yasushi Iwamoto
(Kyoto University)
Summary
公的年金民営化の問題の一つは管理費用である。民間年金は公的年金に比べて規模の経済の恩恵を受けることができないので、口座管理費用や運用管理費用が公的年金に比べて高くなることが予想される。オーストラリアはチリに次いで2番目に強制的な民間年金を導入した国であり、Piggott氏はオーストラリアとチリの民間年金を比較し、民間年金の管理料金は、誰がファンドを管理しているか、ファンド選択の自由度、管理料金に対する規制の有無と透明性に大きく依存しているとした。 次に、管理料金の拠出への賦課と給付への賦課は同値であり、年金資産への賦課は利子率と蓄積期間の影響を受けることを示した上で、6つの年金プランについて、相対的危険回避度にいくつかの値を仮定してシミュレーションを行い、労働者の生涯効用と給付の割引現在価値を比較した。その結果、引退後も投資リスクにさらされる変額年金、インフレが完全にヘッジされる年金のランクが全般的に高く、必ずしも標準的な生涯年金がすべての人にとって望ましいわけではないことが示された。 岩本氏より、初めに強制的な民間年金と積立方式との比較、不完備情報下での競争の意義、オーストラリアでの政治的議論についての質問があり、次に、シミュレーションの技法についてコメントがあった。特に、それぞれのプランの優位性を比較した結果は、パラメーター選択に大きく依存しているのではないかとのコメントがなされた。

第6回ミツイライフシンポジウム「経済的自由と発展」
(ミツイライフ金融研究所/CIRJE)

  • 6月16-18日
  • 東京大学大学院経済学研究科8階会議室


PROGRAM

Wednesday, June 16th

Preliminary Meeting and Dinner Palace Hotel


Thursday, June 17th

Location at The University of Tokyo
Participants will depart for the Univesity of Tokyo
Welcoming Remarks by Professor Tak Wakasugi and David Weinstein
Surgit Bhalla "Hayek Reconsidered: Economic Freedom is it!"
Yingyi Qian "The Road to Economic Freedom, Chinese Style"
Lunch --- University of Tokyo
Travel to Keidanren Kaikan
Welcome Remarks
Keynote Speech by Jagdish Bhagwati
Q and A
Dinner


Friday, June 18th

Location at the University of Tokyo
Shang-Jin Wei "Corruption in Economic Development: Beneficial Grease, Minor Annoyance, or Major Obstacle?"
E. Han Kim
Vijay Singal
"Open Capital Markets and Corporate Governance"
Lunch --- University of Tokyo
Peter Rosendorff "Do Democracies Trade More Freely?"
David Henderson "Let Capital Flow Freely"
Summary by David Weinstein
Dinner