CIRJE-J-189 |
『第二次世界大戦期における三菱重工業の
航空機生産と部品供給』 "Supplier Network and Aircraft Production in Japan, 1939-1945: A Case of Mitsubishi Heavy Industries, Ltd." |
Author Name | 岡崎哲二(Tetsuji Okazaki) |
Date | December 2007 |
Full Paper | PDF file (only Japanese version available) |
Remarks | 『三菱史料館論集』第9号 321-347頁, 2008 所収。 |
Abstract (Japanese) | Abstract (English) |
第二次世界大戦前にはごく小規模であった日本の航空機工業は、終戦時には約150 万人 の従業員を有する巨大な産業に成長した。この急速な成長は、終戦直後から多くの関心を 引き、日本の航空機工業に関する重要な研究が生み出された。なかでも、米国戦略爆撃調 査団の「太平洋戦争報告書」と同調査団に加わったジェローム・コーヘンによる『戦時戦 後の日本経済』は、占領軍としての立場を活用した徹底した調査に基づいて、航空機工業 を含む日本の戦時経済の構造を詳細に明らかにした。これら2 つの研究は、今日でも日本 の航空機工業および戦時経済一般に関する基本文献として、参照されるべき高い価値を有 している。 航空機工業に関する「太平洋戦争報告書」の重要な貢献は、日本の航空機生産が、多数 の小規模なサプライヤーからの部品供給によって支えられていたという見方を提示したこ とにある。すなわち、同報告書は、「機体と発動機の組立作業のかなりの部分が下請業者に よって行われ、部品の大部分が大きな網状組織となっている下請業者製作され」、「工業地 帯に広く分散した小さな工場が、航空機の仕上げに必要な大量の細かい部品を供給した」 と述べている(p.131)。『戦時戦後の日本経済』にも同様の記述がある。 このような見方は、日本の航空機工業および戦時経済一般に関する、その後の多くの研 究に継承された。航空機生産に関する陸海軍および政府の政策に焦点を当てた研究の中で は、山崎志郎が、1943 年9-10 月に行われた行政査察の関係資料を用いて、発動機を生産し ていた中島飛行機武蔵野工場の外注依存度の推移、下請工場管理の問題点等について論じ ている。植田浩史は、「協力工場」、すなわちサプライヤーの名簿を分析し、両者の関係を 整備強化することを意図した政府の政策に反して、発注工場とサプライヤーの関係は継続 性が低く、また多くの発注-供給関係が錯綜したものであったことを強調している。また、 航空機工業は、日本で最初に大量生産方式を導入した産業であることから、生産管理の視 点からの研究も数多く行われ、それらも大量生産方式との関連で部品サプライヤーの役割 に注目している。高橋泰隆、和田一夫、佐々木聡、前田裕子、笠井雅直の研究が代表的な 文献である。 以上のように、多くの研究が戦時期におけるサプライヤーからの部品供給に関心を払っ てきたが、部品供給が航空機生産に対して与えた影響については十分な検討が行われてい ない。すなわち、部品供給に関しては、多くの場合、資料として1943 年9-10 月に行われ た行政査察の関係文書が用いられており、その結果、情報が査察時点に集中している。ま た、この点と関連して、多くの研究は、行政査察担当者を中心とする当時の人々の観察を 主な論拠としている。他方、三菱重工業名古屋航空機製作所が米国戦略爆撃調査団に提出 した調査資料には、1939 年から1945 年までの期間について、部品供給と機体生産に関す る豊富なデータが含まれている。そこで本論文では、それらのデータを用い、名古屋航空 機製作所について、部品サプライヤーのネットワークの拡大、そこからの部品供給の推移、 部品供給と機体生産の関係について、数量データの分析を含めて、体系的に検討する。 本論文は次のように構成される。第2 節では、主に先行研究に依拠して戦時期の航空機 生産政策の推移を概観する。第3 節では、政策の展開を受けて、三菱重工業名古屋航空機 製作所の生産能力と部品サプライヤーのネットワークがどのように拡大されたかについて 述べる。第4 節では、サプライヤーによる部品供給の変動と生産の変動との関係を分析す る。第5 節はまとめにあてられる。 | During the Second World War, aircraft production in Japan, which had been negligible before that, increased sharply. The rapid expansion of the aircraft industry involved numerous small and medium-sized machinery factories, which were organized to be parts suppliers by aircraft assemblers. Focusing on the case of Mitsubishi Heavy Industries, Ltd., a major aircraft assembler, this paper explores the expansion of the supplier network and its implication on aircraft production. |